寶田 博
日本口腔外科学会幹事・指導医・専門医・日本有病者歯科医療学会常任理事他
21世紀の歯科医療は、う蝕や歯周病の制御を中心とした分野に加えて、心の医学を反映した歯科心身症や高齢社会の形成に伴って増加する有病者に対するいわゆる”有病者歯科医療”、さらに再生医療の視点からみたインプラント治療が大きな柱となると考えられる。この内インプラント臨床は、今後その対象者が成人から高齢者へとますます拡がるため、生活習慣病を有する患者や高齢有病者に対する積極的な取り組みは避けて通れない課題であり、歯科医業の経営的な戦略から見ても最も魅力ある分野となっている。
インプラント臨床は、表面的には補綴治療の分野に見えるし、巷にあふれる各種の研修会においても審美補綴を重視した面に関心が集まっているように思えるが、最も重要なことは、インプラントを安全確実に植立し、医学的な視点に立って長期的予後を維持することである。
高齢有病者に対するインプラント外科にはリスクを伴うものであり、植立に際して全身的な偶発症を防止するためには、患者や患者を取り巻く状況から、術前にいかに的確な情報を得るかということが基本である。高齢者においては、基盤として「老化」が存在し、そのうえ循環器疾患をはじめとする各種の基礎疾患に罹患しており、しかも高齢になればなるほど複数の疾患を有し、これに伴って服用する薬剤が増加する傾向が当然高まる。
情報を的確に得るための最も普遍的かつ重要なのは、いうまでもなく問診であるが、特に留意したいことは、健診制度が発達した今日でもなお病識のない患者がいることである。問診時に見過ごすと全身的偶発症の大きな要因となる。
問診に次いで重要なことは、視診や触診により身体に現れた症状を観察し、基礎疾患との関連を診断することである。さらにVital signをチェックすることにより基礎疾患の診断についての根拠を得ることがしばしば可能である。
一方、全身的な疾患の影響による症状が口腔に発現することは古くから知られており、この場合、口腔内の症状から逆に全身的な疾患を推測することもしばしば可能である。さらに、全身的な疾患に関わる情報の客観性を高めるためには、理学的検査を含めた臨床検査は欠かせない。
今回の講演では時間的な制約があるが、インプラント臨床の一助としてお役に立てば幸いである。
