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• 2016/ 02/ 10 (水)


平成28年1月10日
日本歯周外科学会
会長 伊藤輝夫
 学会員 各位
謹賀新年
今年こそ歯科界の沈滞ムードを一掃したいですね。 
 先生方にはご健やかに、新年をお迎えになられた事と拝察申しあげます。
昨年1月16日に「歯科医師の資質向上等に関する検討会」の第1回会議が厚労省主導で開かれた事をご存じですか。この検討会は厚労省の医政局長、大臣官房審議官を招き、歯科部門から和田医療専門官、鳥山保健課長を主催者として、全国から開業医、歯科大学学長、歯科医師会長、医師会役員、新聞社役員。法律事務所長、人口問題研究所長の多士済々の面々で、諸々の状況を踏まえ、根本的な問題として、次の3点について、即ち①歯科医師需給問題 ②歯科医療の専門性 ③女性歯科医師に関するものでした。
 実は平成18年12月にも厚労省医政局歯科保健課が前述と同様の「今後の歯科保健医療と歯科医師の資質向上に関する検討会」の中間報告をまとめている。これら行政の動きは年々の歯科医療に対する患者の選択の尊重性や保健医療に求められる水準の高まりを背景とした歯科医師の資質を懸念したもので、以下に、私見をはさみながら概要を述べます。
 歯科医師の資質
 大学歯学部に入学する学生の資質の低下が指摘されて久しい。重視すべき資質は、コミュニケーション能力および歯学部入学時における一定以上の学力を有することが求められるべきあるが、卒前教育の場において、指導教官は、学生が医療人として、卒後において良識ある社会人として信頼性と安全で適切な歯科医療を行うための教育指導を行うことが重要である。医師たる者の資質は、医師・歯科医師の多寡や大学入試、国試の難易性の論議だけでは向上はありえない。従って、医師・歯科医師を養成する大学は職能教育の場であることを指導教官は自覚すべきである。しかしながら近年、卒前(大学)の臨床実習は、基本的技術実習の時間が減少傾向にあり、カリキュラムの貧弱化は卒後における歯科医師の資質の向上に影響を及ぼすものであり、卒後は、さらに医療人として生涯研修の理念を自覚して、日進月歩の医療水準に準ずる資質の向上に努めるべきであるが、いずれの学会、研修会の年次会合の会員参加者は20%前後に過ぎないと言われている。言わば活動しない名目学会員である。今後、すべての歯科医師が倫理および知識、技能について、積極的、継続的に研修を行う必要があり、その結果の評価も求められている。
 1.歯科医師の需給
 歯科医師の新規参入は、昭和61年の検討会報告後、入学定員の20%削減が実現され、さらに平成10年度に10%程度の削減が提言されたが、
1,7%に留まっている。平成18年8月に文科省および厚労省の両大臣による確認書を受けて、次のように歯科医師の需給問題が予測された。
 a受診患者数:歯科診療所の患者数は、全体として横ばい傾向にある。歯科医師数は毎年1,500人程度のペースで増加しており、歯科医師1人当たりの患者数が減少し、歯科医師の過剰感は益々強くなている。
 歯科診療所施設数は平成25年68、701件(廃止1、746件、休止398件、計2、144件)直近の平成26年10月は68,592件 (開設1、910件、再開123件、計2、033件)前年比で微減している。歯科医師数は平成24末で、総数10万人余になっている。これは人口10万人当たり、歯科医師は80人を超えている。なお、歯科は多くが診療所開設者であり、女性歯科医師は勤務者が多数である。医科は男女とも病院勤務者が多数である。
 b歯科医師の過剰問題:歯科医師の専門職としての魅力の低下とともに歯学部入学者の質の低下を招き、国試合格率(平成26年の合格率約63%)や臨床研修の場の減少と個人経営開設者が大多数の歯科診療所における勤務医の長期的従事条件が悪化し、競争社会化が商業化を生み、歯科医師のモラルの低下を招くことになる。医学的な基本的技能に未熟な歯科医師は必要とする観血的外科手術から逃避して、リスクのない外面的歯冠修復歯科治療に終始し、経営上、保険給付外診療を主体とした医療ビジネスに感化され、開業請負業者の誘いと、集患策(宣伝・広告、HPの活用)に翻弄し、さらに新規開業の際、最新高額歯科医療機器の過剰設備投資による高額治療費の早期回収を患者に委ねる(自費率をあげる)結果、個々の患者が期待する歯科医療水準を技術的に維持できず、患者の満足度の低下と共に不信感を招いている。
 c.高齢社会の歯科医療:高齢者の歯科医療の現状は低調で、在宅療養支援歯科診療所の届出は10%に満たない状況である。過去(1970年代まで)は先進国中で最も低い高齢化率の低い国であったので、当時は専ら健常者対応型の歯科医療が行われ、歯科医師は過剰気味であった。高齢社会と化した現在、高齢者対応型歯科医療に対応できる歯科医師は不足していると言える。従って、新規開業の若手歯科医師の多くは、高齢者特有の全身的変化や心理的変貌に伴う口腔機能および咬合力の低下に対応する診断と技能(無歯顎患者の総義歯作成やインプラント治療)は決して十分であるとは言えない。
歯科医師需給問題の日歯会の見解
 日歯会は平成26年10月に「歯科医師需給問題の経緯と見解」を纏めている。将来的に、どれほどの歯科医師数が望ましいか・・・? これを数値化している。
 ①現在の歯科医師数, ②1日当たりの患者数、③国家試験合格者数の3点から、バランスの取れた適正歯科医師数は81、641名と数値化された。これは2,000名前後の国家試験合格者と人口推移を踏まえ、将来的(20年後)に歯科医師(新規を含め)数は人口10万人当たり80,409名が数値化されたと述べている。また、歯科医師数は75、000名位が適正であるとの見解をしめしている。
政策局歯科保健課の今後の方針
 平成18年度の歯科医師数の伸びをゼロとし、新規参入歯科医師の90%が稼働すると仮定した場合、新規歯科医師は約1、200人程度とする必要がある。同年度の歯学部募集人員2,667人、同年国試合格者(2、673人)の45%に相当する。従って、以下のように新規歯科医師数の削減を図る。
 ①18歳人口の減少を考慮して、積極的な削減数を早期実現のため、各大学の自主的、前向きの取り組みに期待する。
 ②国試については、平成19年の国試制度改善検討会(4年ごと)において、資質向上の観点から合格基準を引き上げ、出題内容などについて幅広く検討する。
今後の歯科保健医療の予測
 歯学部および医学部口腔外科教授、都道府県歯科医師会長を対象としたアンケート調査(平成17年と27年)の結果を次に示す。
*歯科大学の教育担当者は、年々の入学者の学力低下を指摘している。
*需要が増加する分野:予防歯科(歯科疾患の予防、管理)、インプラント治
 療、高齢者対応歯科、審美修復などを挙げている。これに伴う技術研究の
 充実を強調している。
*需要が減少する分野:小児歯科、保存、補綴分野を挙げている。その理由
 としては、少子化、予防の成果、インプラント治療への移行
*今後10~20年間に歯科保健医療に必要性の高い分野:検査および
 診断、再生医療、歯科疾患予防のための健康・栄養指導、在宅訪問およ
 び高齢者特有の歯科治療の充実が急務である。
*全身疾患への予防と進行防止、全身の健康保持増進への寄与:歯周病と
 全身との関連性や誤嚥性肺炎の予防などについては国民への啓発、マス
 メディアの活用および医科との連携、さらなる基礎研究の充実。食生活
 における口腔機能の重要性、健康寿命への寄与、アンチエージング、
 無呼吸症候群などへの対応を挙げている。
*現在の超高齢化社会は100歳以上の高齢者が6万人を超えたと言われ、
 今後、後期高齢者の延びが、約30年は続くと予測されている。
*さらに2025年問題が待ち構えている。いわゆる「団魂の世代/第1次ベビーブーム;1947年~1949年の3年間の生まれ」の方々が75歳になるのが、2025年です。国民の4人に1人(約2、300万余)が後期高齢者となり、医療・介護サービスの需要、年金の受給者等が急増することが確実視されています。こうした迫りくる超高齢社会に対して、国は社会保障の財務政策に躍起であるが、歯科医療政策については、末梢事案として等閑視されている。

1.疾病変化に伴う需給問題 
*小児齲蝕(3歳児)は現在、1980年代の約3分に1程度まで罹患率が減少。
*8020の達成者は平成23年度調査では、20歯以上保有達成者が
 40.2% になっている。
*従来(1980年頃まで)は、齲蝕の充填、補綴および歯周病に対し抜歯・
 義歯などの形態修復型・歯科医療完結型の治療が主体であったが、歯科
 疾患構造の変化および超高齢社会は今後、数十年は続くと予測されるので、
数年後には口腔機能の回復維持を主体とした歯科医療機関が、医科医療機関および介護施設、地域包括支援センターなどとの連携を図り、地域完結
型医療の中に歯科医療体制が組み込まれるのではないかと思われる。
*推計患者数の年次推移(3年ごとの調査)によると、平成23年は65歳以上の割合が35.9%で、目立った増加傾向にあり、今後さらにる高齢患者の増加に伴う歯科医療体制および歯科医師の対応が論点になる。
*高齢者の増加は全身的有病者の増加を意味する。従って、歯科治療の難度が高まり、全身的リスクを伴う対応が増大するため、歯牙を中心とした歯科治療のみならず、口腔機能と食事・栄養管理、全身疾患を背景とした包括的歯科医療論議が急務である。
2.歯科医療の専門性
 歯科が医科と大きく異なる点は、単に臓器、部位的に分けられているのでなく、治療内容によって治療体系や学問体系が細分化されている点である。従来、歯科は専門分野として、教育、研究、診療が特化しており、局所的専門性は高いが、近年の社会構造の変化に伴う医療の高度化のなかで、過去の歯科の専門性が脆弱化してきたことから、歯科をさらに細分化して専門分野を作るべく各学会が認定制度をもうけているが、現況は専門医資格証書を発行しているが、実地技能認定がなされてないので、専門医としての意味をなしていない。今後、高齢者、障害者の増加に伴い専門性と共に全身性疾患の診断および管理の必要性が高まると思われる。この点、近年の新規歯科医師の高齢患者に対する診断と対応能力の低下を懸念せざるを得ない。
 これは歯科だけの問題でなく,医科においても「専門バカ」に陥る傾向にあり、現在、学会認定医・専門医と言われる人達に対し、例えば、耳鼻咽喉科、眼科、脳神経外科などの19の基本領域専門医修得者に、新たにSubspecialty(副専門領域の資格)を備える必要性から、循環器、消化器、呼吸器などの専門医資格修得や病態栄養学知識習得の道が作られている。近年、医科(大学病院)においては、単に内科、外科の標榜は無くなる傾向にあり、内科は循環器、呼吸器、消化器、腎臓などに、外科は心臓外科、脳外科、胸部外科などの専門表示される傾向にある。一方、総合診療医の必要性とともに、複数の医師によるチーム医療が充実されつつある。ここで言う専門医とは「それぞれの診療領域においてエビデンスに基づいた十分な知識と経験を持ち、患者から信頼される標準的な医療が提供できる医師」で、特殊な技能(例えば、神の手とか、スーパードクター)を指すのではなく、医学・歯学の基本的技術の研鑽と臓器疾患の治療力を向上し、社会構造の変化(人間学)を適切に医療に実践することができる医師・歯科医師が、各医療体制の名誉ある専門医であると言える。

 3.女性歯科医師の問題
 近年、歯学部入学者に占める女性の数、割合の推移をみると、昭和40~50年代には約10%台であったが、経年的に年齢別比率を見ると30歳代では34%、20歳代では約40%に、若い女性歯科医師の増加傾向の推移がみらる。なお、ドイツでも近年、女性歯科医師は増加傾向にあり、70%に達しているらしい。そこで、女性歯科医師の就業状況、キャリアパスについて関心が高まっている。女性特有の問題点としては、結婚(戸籍上など手続き)、出産、育児などに伴う離職、復職を想定しながら、女性歯科医師の有効な活躍の場が求められている。因みに、女性医師は皮膚科、眼科、基礎研究系などに携わる方が多く、女性歯科医師は歯周病、歯列矯正、小児歯科などに関心が高い傾向にあり、職能的にcureより、careの分野で、有能な方々が多いように思われる。今後、女性歯科医師の個性を生かした貢献性と有効な医療現場を開拓する必要がある。
 以上、昨年度における厚労省が開催した「歯科医師の資質向上等に関する検討会」の要旨を記述しました。ご参考になれば幸甚です。
何か、ご質問、ご意見がありましたら、ご一報とともに教示賜りたいと存じます。